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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)251号 判決 1986年12月25日

原告 篠田喜作

被告 特許庁長官

主文

特許庁が、昭和五九年九月一二日、同庁昭和五八年審判第一一八六八号事件についてした審決を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五三年七月七日、名称を「紙幣」とする考案(以下「本願考案」という。)について、実用新案登録出願(昭和五三年実用新案登録願第九三五八一号)をしたところ、昭和五八年三月一八日拒絶査定を受けたので、同年五月二五日これを不服として審判の請求(昭和五八年審判第一一八六八号事件)をしたが、昭和五九年九月一二日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は、同年九月二六日原告に送達された。

二  本願考案の要旨

表面に任意形状のパンチ孔を、幅方向に二つ折りまたは長手方向に四つ折りした折り目を避けて穿設したことを特徴とする紙幣。(別紙図面参照)

三  本件審決理由の要点

本願考案の要旨は、前項記載のとおりと認められるところ、当審が昭和五九年三月二日付で通知した拒絶理由は、次のとおりである。

1  一般に紙幣は、日常生活における取引の場で流通するものであり、長期間にわたつて使用に耐えるように特別の材質の用紙を選定して製造されていることは周知であるが、なおかつ、破損した場合には引き換えることが法律で規定されている(昭和一七年五月一日大蔵省令第三三号損傷日本銀行券引換規定)。本願考案は幅方向二つ折り又は長手方向四つ折りの折り目を避けて、任意形状のパンチ孔を穿設してなる紙幣に係り、これによつて触覚による識別を容易にし、同一サイズ、同一紙質により額面の異なる紙幣の製造を可能とする効果を奏すると主張するものである。なるほど、パンチ孔の穿設により、紙幣の識別の容易さなど主張のような効果を否定するものではないが、紙幣本来の使命である長期間の流通使用に耐えるという要求に対しては、パンチ孔を設けたということにより、その寿命が著しく損なわれるものと認められ、前述の効果にもかかわらず、使用上の実用性は極めて乏しいものになると解せざるを得ない。したがつて、かかる点より本願考案は、実用新案法第三条第一項柱書きにいう産業上利用することができる考案であるということができない。2 前項拒絶理由について、請求人(原告)は使用上耐久性の面においても、何ら従来の紙幣と異ならない旨主張することが考えられるが、現実の問題として通常の紙幣でも流通中に損傷することを考慮すると、その主張は裏付けのないものであることになり、仮に、その効果の立証をしようとすれば、刑法第一四八条及び第一四九条に規定される違法行為となる場合以外はほとんど不可能であるといわざるを得ない。しかも、紙幣の様式等が法律で規定されていること(日本銀行法第三三条参照)を併せ考えると、本願考案を実施することは事実上不可能に近いものというべく、また、善意の第三者が本願考案を模倣する場合、前記した違法行為をそそのかすことにもなりかねないことは明白である。してみれば、本願考案は、実用新案法第四条に規定する公の秩序を害するおそれがあるものと認められるから、実用新案登録を受けることができない。

請求人(原告)は、意見書を提出し、右の拒絶理由1について、本願考案の主たる目的は、紙幣の識別を容易にすることであり、パンチ孔の穿設に伴う紙幣の耐久性の問題については、請求人(原告)は、審判官指摘のような懸念を全く持ちあわせていない。紙幣がボロボロになるまで循環使用されるということは現状では考えられず、紙幣としての機能、価値を維持する点から、適当なサイクルで新旧紙幣が交換されるのは常識であるから、この限りにおいては審判官認定のような問題は生じない。仮に、耐久性が劣るというのであれば、新旧紙幣の交換サイクルを早めるとか、あるいはその紙の質を変える等の他の行政的又は技術的手段により改良ないし改善されればよいのであつて、だからといつてこの考案の識別容易性という効果が否定され、更に、そのことだけで、本願考案自体が産業上利用できるものでないとするのはいかにも短絡的である。このように考えると、ある考案が、一定の新しい効果を達成するが同時に他の技術的不利益を生ずる場合、それをもつて産業上利用できないとすることの不当性はいうまでもないことで、そのことは即座に理解できるものである旨、また、右の拒絶理由2について、この理由が何をいわんとしているのか請求人(原告)には定かでないが、本願考案の「表面にパンチ孔を穿設した紙幣」の構造がどうして公の秩序を害することになるのであろうか。盲人をはじめとして紙幣の識別を容易にし、紙幣サイズの統一を可能にするこの考案は、通貨行政上の役に立つことはあれ、これが公の秩序を害することになるとは、どう考えてみてもおかしい。実用新案法第四条の規定は、その考案が本来の目的に使用された場合に公の秩序を害するおそれのある場合を規定しているのであつて、本来の目的以外に不当に使用され、その結果公の秩序を害するおそれのある場合などは包含されないのである。そうでなければ、例えば、ピストルや刀剣類に関する考案がそれらが暴力団に使用される場合があるからといつて本条に該当したり、あるいは紙幣や通貨の製造装置がもしかしたら偽造に使用されるかもしれないといつて本条で拒絶されることになり、明らかに不当な結果を招く旨述べている。

そこで、本願考案に対する前記拒絶理由と、それについての請求人(原告)の意見を対比検討するに、まず、拒絶理由1の産業上の利用性について、請求人(原告)は、本願考案に係る紙幣の耐久性が劣る点は、紙幣の紙質の変更あるいは新旧紙幣の交換サイクルを早める等の技術的又は行政的手段により改良ないし改善されればよいのであり、耐久性が劣るからといつて、本願考案の識別容易性という効果が否定され、そのことだけで本願考案が産業上利用できないとするのは短絡的である旨主張する。なるほど、請求人(原告)が主張するとおり、紙幣に対しパンチ孔を穿設した結果、識別が容易になるという一応の効果が奏されるとはいえるが、他方において、紙幣が日常の社会生活、経済活動において流通使用されている状態を考えてみると、現行の紙幣に比べ、パンチ孔を穿設したために耐久性の低下といつた欠点の生じることもまた容易に理解することができるところである。ただ、この欠点は一見すると、請求人(原告)が主張するように紙幣の紙質の変更あるいは新旧紙幣の交換サイクルを早める等の別途の配慮により解決可能な問題であるとみられなくもない。しかしながら、紙幣も含めた通貨は、現代の複雑な社会生活、経済活動の基礎をなすものであるから、その安定を図るために国によつてその発行がなされ、信用の裏付けがなされているところであつて、通貨の製造のために重大な配慮がなされていることは多言するまでもなく周知の事実である。そして、高額な通貨として用いられることの多い紙幣の製造に当たつては、その信用が容易に失われることがなく、相当長期間の流通使用にも充分耐え、かつ、偽造等を防ぐために、特別な材質の素材を用い、その製造においても複雑な透し模様等を取り入れ、その上多数色調の特殊インキを使用して、多種類の模様が特別の印刷機によつて印刷製造されていることは一般に知られており、時折社会問題となる紙幣偽造事件において、紙幣偽造は到底採算が取れないといわれるほどに、高度な技術と厖大な経費によつて実現されているものである。叙上のように、紙幣に対する信用を維持するために、国の通貨行政においては従来からも高度な技術と厖大な経費を必要としていることを考慮すると、パンチ孔の穿設による紙幣の耐久性の低下ということは、請求人(原告)主張のような別途配慮されれば足りるといつた単純な欠点ではなくて本質的な問題であり、通貨行政に対して従来の紙幣と異なつた材料(用紙、インキその他)の開発や製造手段の変更あるいは交換サイクルの短縮等予想もできないほどの技術上、経済上の追加的負担をもたらすことは極めてみやすいところである。それにまた、請求人(原告)の主張するところの、紙幣にパンチ孔を穿設したことにより、盲人にとつて紙幣の正確な識別が可能になるという効果も、実際上問題はそれほど単純なものではない。盲人は、通常、正常人よりも視覚以外の感覚が鋭敏であつて、正常人にとつてその識別が困難なものであつても、手先の触覚によつて微妙な差異を容易に知覚し得る能力を持つているものであり、なにも紙幣にパンチ孔を穿設しなければ盲人にとつて識別が困難であるとか、パンチ孔を穿設したからといつて直ちに識別が可能になる、といつたものでもないと考えられる。かえつて、パンチ孔の存在により正常人が偽造紙幣を真貨と誤認する危険の大きくなることさえ考えられるのである。以上のような事情を勘案すると、本願考案は、本質上紙幣の耐久性の低下や通貨行政に対する大きな負担等パンチ孔の穿設によりもたらされる利点をはるかにこえた重大な不利益を伴うものであり、また、その利点とするところも到底高く評価しなければならないものとはいえないので、結局のところ、産業上利用することができる考案に当たらないものというべきである。次に、拒絶理由2について、請求人(原告)は、本願考案が奏する効果を挙げて、これが公の秩序を害することはおかしいと主張し、実用新案法第四条は、考案が本来の目的に使用された場合に公の秩序を害するおそれがある場合を規定しているのであつて、本来の目的以外に不当に使用され、その結果公の秩序を害するおそれがある場合などは包含されないと述べている。ところで、紙幣を含む通貨は、拒絶理由1についての検討においても触れたように、現在の社会生活、経済活動の基礎をなすものであり、通貨に対する信用がひとたび失われると収拾のつかない混乱に陥り、ひいては国の存立を危険ならしめるのであるから、通貨の信用を危険に瀕せしめる行為に対して、国が厳しい態度で臨み、その発行権限を国が掌握し、紙幣の様式等を法律で定めるとともに、その偽造、変造、行使の行為を刑法により厳しく禁止しているのである。このことを考えると、刑法第一四八条及び第一四九条に規定される違法行為となる、あるいは少なくともそのおそれがある行為となる以外はその実施がほとんど不可能であり、また、私人によるそのような違法行為をそそのかすことにもなりかねない本願考案は、やはり公の秩序を害するものといわなければならない。更に、本願考案がその対象とする紙幣は、法律によつて一般人が改変を行うことを禁止しているものである以上、現実の紙幣について本願考案の効果を確認しようとしても、それが直ちに違法の行為につながるものになることは明らかである。請求人(原告)は、これらの点に関しては何ら意見を述べることなく、単に識別等の効果が公の秩序を害することになるとすることはおかしいと述べるのみで、当審の拒絶理由で指摘した点に対して実質的な意見を述べていない。

以上述べたとおり、当審の拒絶理由に対する意見書において述べられた請求人(原告)の主張は採用できないから、本願考案の実用新案登録出願は、前記理由によつて拒絶すべきものとする。

四  本件審決を取り消すべき事由

本件審決は、実用新案法第三条第一項柱書き及び第四条の規定の解釈を誤り、かつ、本願考案の奏する作用効果を過少評価し、本願考案のもたらす技術的不利益を過大に評価した結果、本願考案は実用新案法第三条第一項柱書きにいう産業上利用することができる考案であるということができず、かつ、実用新案法第四条に規定する公の秩序を害するおそれがあるから実用新案登録を受けることができない旨の誤つた結論を導いたものであつて、違法として取り消されるべきである。すなわち、

1  産業上の利用可能性について

本件審決は、紙幣にパンチ孔を穿設するということは、<1>紙幣の耐久性の低下を招き、通貨行政に対して予想もできないほどの技術上、経済上の追加的負担をもたらし、その利点をはるかにこえた重大な不利益を伴うものであり、<2>紙幣にパンチ孔を穿設しなければ盲人にとつて識別が困難であるとか、パンチ孔を穿設したからといつて直ちに識別が可能になる、といつたものでもなく、かえつて、パンチ孔の存在により正常人が偽造紙幣を真貨と誤認する危険が大きくなり、その利点とするところも到底高く評価し得ないとしたうえで、本願考案は、産業上利用することができる考案に当たらないと認定判断している。ところで、実用新案法第三条本文柱書きにいう「産業上利用することができる考案」とは、技術的な意味において産業上利用することができる考案をいうのであつて、ある考案が産業上利用することができるかどうかということは、その時点で経済的に採算が合うかどうかとか、時の政府がそれを採用するかどうかとかいうような技術とは無縁な経済的、政治的な要素で判断されるべきではないところ、本件審決は、前記のとおり、通貨発行当局の立場に立つて、本願考案の実施を現時点で採用すべきか否かの政治的、経済的判断を下しているのであつて、本願考案自体の産業上の技術的実施可能性を判断しているものではない。考案が、一定の作用効果を奏することをその技術的課題とし、これを達成したものである以上、同時に他の面では技術的不利益をもたらすことがあつても、その不利益が考案の実施をも不可能にさせるほど本質的に重大なものである場合は別にして、その不利益が普通の意味の不利益にとどまる場合には、産業上の利用可能性を否定することは明らかに不当である。けだし、実用新案を含む広義の特許制度は、技術の将来の発展をふまえて制定されているものであつて、その時点で技術的不利益を有していても、将来的に発展の可能性があれば、発明・考案として保護すべき理由があり、かつ、右の技術的不利益は、通常、改良又は他の技術的手段の付加によつて除去することができるものだからである。これを本願考案についてみるに、本願考案は、盲人のために紙幣の識別を可能にすることを目的とするものであつて、本願考案において穿設されるパンチ孔は、その目的からみて指の触感覚によつて識別される程度の大きさがあれば足りることは常識的にも容易に理解されるところであり、かつ、本願考案の明細書及び図面に示された実施例にも、特に大きなパンチ孔を穿設することが示されているわけではないのであるから、パンチ孔の穿設によりその耐久性が低下することがあるとしても、極端な耐久性の低下、すなわち、紙幣として全く使用することができないほど強度がなくなるということはなく、単に耐用期間が低下するというにすぎない。したがつて、本願考案の実施は可能であり、右耐久性の低下は、例えば、紙幣の紙質ないしはその構造の変更あるいは新旧紙幣の交換サイクルを早める等の技術的又は行政的手段により改良ないし改善することができ、そうすることは決して不可能と断定されるものではないのであるから、右の技術的不利益面だけを捉えて、通貨行政に対して予想もできないほどの技術上、経済上の追加的負担をもたらすとか、その利点をほるかに超えた重大な不利益を伴うとか考えるのはいささか尋常ではない。また、前記<2>の点に関していえば、本件審決は、「なにも紙幣にパンチ孔を穿設しなければ盲人にとつて識別が困難であるとか、パンチ孔を穿設したからといつて直ちに識別が可能になる、といつたものでもないと考えられる。」と、本願考案の効果(目的)について懐疑的に述べているが、紙幣に識別用のパンチ孔が穿設されれば、盲人のためにはそれだけ利便が増大し、効果があることは何人にも明らかである。特に、数種類ある紙幣の紙質又はサイズが共通化された暁には、あるいはその統一化のためには、本願考案のような識別マークが不可欠となることは多言を要しないのであつて、本件審決の右の認定判断部分は、紙幣には盲人のための識別マークなど不要であるという識別マーク不要論が述べられているにすぎない。なお、付言するに、昭和五九年一一月一日より発行された新紙幣には、その裏面に紙質を薄くすることによつて点字の凹凸マークが形成されているが、これは新紙幣の縦の長さを七六ミリメートルと統一した関係で、盲人の紙幣識別の便宜のために付されたものである。また、本件審決は、偽造通貨と真貨との誤認の危険性について言及しているが、正常人に対して、パンチ孔の存在自体が特別に誤認の危険性を増大させるわけではない。被告は、紙幣の耐久性の低下という点に関して、二年もつものが一年半程度に低下するようなものではなく、もつと大幅に低下するとみるのが妥当と考える旨主張するが、その程度はせいぜい一割程度とみるのが妥当であつて、被告の右主張は、事実に反するものである。また、被告は、本願考案の明細書のどこをみても、耐久性の低下という欠陥を防止するための有効な技術的手段が開示されていない旨主張し、そのことを、本願考案が社会通念上技術的価値を欠き産業上利用可能性のない考案に帰することの一つの理由として述べているが、そうした理由は、本件審決のどこにも記載されていないばかりか、特許庁における審査及び審判において一度も問題とされたことのない事項であつて、出願人である原告は、これに対して意見を述べる機会を与えられていないのであるから、このような事項を審決取消訴訟の場で主張することは許されるべきでない。

2  公序違反について

本願考案は、紙幣に関する考案であつて、本願考案に係る構造の紙幣を発行できる者、すなわち、本願考案を実施できる者は国だけであることは当然の事理であるところ、原告は、社会福祉の観点に立つて、国が本願考案のような構造をもつた紙幣を採用することを願つて、本願考案を出願したのであつて、原告若しくはその関係者等が現に流通している紙幣にパンチ孔を穿設しようというものではない。実施が法律上制限されている場合にも、発明の特許性(考案の登録性)が失われるものでないことは、パリ条約の規定(第四条の四)を持ち出すまでもなく明らかである(考案の実施が不可能であることは公序違反にならない。)。本件審決は、本願考案が公の秩序を害するおそれがあるとする理由として、<1>本願考案は、刑法上違法行為となる、あるいは少なくともそのおそれがある行為となる以外は、その実施がほとんど不可能であること、<2>本願考案は、私人による右のような違法行為をそそのかすことにもなりかねないこと、<3>現実の紙幣について本願考案の効果を確認しようとしても、それが直ちに違法行為につながること等の事実を挙げているが、本願考案は、紙幣に係る考案であつて、偽造紙幣に係る考案ではないのであるから、右<1>にいう刑法違反となる以外に実施できないとの理由は失当であり、また、<3>の効果の確認が違法行為につながるという点についても、技術的事項の確認であれば何も現実の紙幣を用いなくてもできることを考え合わせれば、この理由も意味がない。そして、<2>の点についていえば、本願考案の構成が違法(犯罪)行為をそそのかすとか、そそのかさないということは、本願考案の技術的性質とはいささかの関係もないことであるばかりか、実用新案法第四条は、考案がその考案本来の目的に使用されたときに公の秩序を害するおそれがある場合を規定しているのであつて、本来の目的以外に不当に使用され、その結果、公の秩序を害するおそれがある場合などは包含されないと解すべきである。そうでなければ、その種紙幣を含む通貨及びその製造装置に関する考案は、常に通貨の偽造をそそのかすことになり、また、刀剣銃砲類等に関する考案は、暴力行為をそそのかし助長することとなつて、これらの考案はことごとく、右規定に該当するという不当な結果を生ずることになつてしまうからである。したがつて、右<2>の理由も失当である。被告は、本願考案は、技術的価値がなく、現実的意味をもつて実施できる可能性がないから、犯罪行為をそそのかす以外に意味がなく、それゆえに、必然的に公序違反とならざるを得ない旨主張するが、右主張には論理のはなはだしい飛躍があり、到底理解できるものではなく、失当である。また、被告は、パリ条約第四条の四の規定に関して、同規定は生産物の製造が国内法令で制限されている場合については規定しておらず、のみならず通貨の偽造等に関する法規定の遵守は、国にとつて基本的、かつ、最大限に尊重されなければならないから、このような重大な要請に基づき公序違反として本願考案を拒絶しても右条約規定違反にならない旨主張しており、確かに、パリ条約第四条の四の規定は、条文の文言上生産物の製造が国内法令で制限されている場合については言及していない。しかしながら、このような場合を含むことは条理上当然であつて、パリ条約全体の趣旨並びに右規定の趣旨からこれを除外する理由は全くない。また、通貨の偽造等に関する法規定は、国にとつて基本的、かつ、最大限に尊重されなければならないことに異存があるはずはないが、だからといつて、通貨に関する考案は、これを国が独占すべきもので、一般私人がこれをあえて行えば犯罪行為となるという考えで、当該考案を拒絶することは、明らかに不当で、まさしくパリ条約のこの規定が禁止しているところである。このような国内法令上の制限は、考案の質、すなわち、その技術的価値にいささかの影響を与えるものではない。

第三被告の答弁

被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

一  請求の原因一ないし三の事実は認める。同四の主張は争う。

二  本件審決の認定判断は正当であつて、原告が主張するような違法の点はない。

1  産業上の利用可能性について

紙幣にパンチ孔を穿設すれば、耐久性の低下を招くことは原告も認めて争わないところであるが、紙幣が日常生活において頻繁に人の手に触れて用いられるものであることを考えると、パンチ孔の存在により流通中に加速度的に破損され、ちぎれやすくなる等重大な耐久性の低下をもたらすことは、否定し難いところであり、穴あき紙幣の耐久性の低下を数値でもつて表現することは、そのパンチ孔の大きさ、数、位置等の条件が具体的でないこともあつて困難であるが、一般論としていえば、一、二度使えばすぐ破れてしまうようなことはないとしても、二年もつものが一年半程度に低下するようなものではなく、もつと大幅に低下するとみるのが妥当である。ところで、紙幣の耐久性は偽造防止と並んで紙幣にとつて最も要請される重要点であることはいうまでもないところ、本願考案のように、例えば、星形や多角形のパンチ孔(パンチ孔も、あまり小さいと原告のいう盲人に対する識別機能すらもなくなつてしまうことになるから、ある程度以上の大きさが当然に必要になると考えられる。)を数個も穿設すれば、日常生活において頻繁に人の手に触れて使用される紙幣として、強度が低下し、その流通中に加速度的に破損され、ちぎれやすくなる等大幅な耐久性の低下をもたらすことは、当業者はもとより一般常識人にとつても明らかであつて、これは、紙幣としてみれば、技術上重大で本質的な欠陥であるといわざるを得ない。幅方向に二つ折り又は長手方向に四つ折りした折目を避けてパンチ孔を穿設するということそれ自体が既に、パンチ孔の存在のために折目からちぎれ易くなる等の重大な危険のあることを原告自らも認めていることを意味するものといえる。紙幣というものは、一国の社会生活、経済生活の基盤をなすものであつてみれば、このような欠陥は、到底別途配慮すれば足りるといつた性質のものではなく、本願考案の実施を不可能にさせるほどに重大なものである。本願考案の願書添付の明細書や図面のどこをみても、右欠陥防止のための有効な技術的手段は開示されておらず、その開示のないということが、欠陥の防止が簡単にできるものでないことを窺わせているといえる。ちなみに、昭和五九年一一月から発行されている、すかし技法を採り入れた盲人用識別マーク入りの紙幣も、破れやすくなる等の欠点を考慮する必要があるために、マークの大きさや凹凸差に制限があり、識別機能が上がるからといつてそれを大きくはできないといわれているのであり、このことは、紙幣の強度の維持が極めて重要な要請であること、及び識別マークの形状や凹凸差を大きくしながら同時に紙幣の耐久性を低下させないことが技術上いかに困難な問題であるかということを示しているということができる。そして、本願考案に係る紙幣が前記識別マーク入りの紙幣よりはるかに破損されやすく、耐久性の大幅に低下することは、一般常識人であれば、誰しも容易に理解できることである。ところで、原告は、右の欠点は、紙幣の紙質ないし構造の変更あるいは新旧紙幣の交換サイクルを早める等の手段により改良ないし改善することができ、そうすることは決して不可能と断定されるものではない旨、また、パンチ孔を穿設することによる耐久性の低下の程度も、紙幣として全く使用できない程に強度がなくなるというのではなく、単に耐用期間が低下するというにすぎないから、考案の実施は可能である旨主張するが、そのような改善は、実際問題として、また、現実の技術問題として極めて実現困難なものであり、実質上不可能といつても過言ではない。新旧紙幣の交換サイクルの短縮を図らなければならないことそれ自体が既に重大な欠陥の存在を意味しているといえる。しかも、本願考案の明細書の考案の詳細な説明の項の記載及び願書添付の図面をみても、紙幣の紙質を改善するために具体的にいかなる手段をとればよいかということについての記載は全くなく、また、構造の変更あるいは改良とは、幅方向に二つ折り又は長手方向に四つ折りした折り目を避けてパンチ孔を穿設することのようであるが、そうしたとしても、紙幣の耐久性が低下し、パンチ孔からちぎれ易くなることに変わりはない。現在我国で紙幣用に供し得る特別の紙質のものを選んでも、紙幣の耐久寿命はわずか数年であるといわれていることを考えれば、折り目を避けてパンチ孔を穿設したとしても、穴あき紙幣の使用上の寿命の極めて短いことは、容易に理解できることである。このような重大な欠陥を有するにもかかわらず、その防止手段につき開示するところのない本願考案に技術的価値はない。また、紙幣は、流通過程において、しわになりやすいものであるから、パンチ孔による識別機能が低下することは明らかであり、本来さほど高く評価できない盲人に対する識別機能がますます低下して、後に残るのは破損しやすく、耐久性が低下するという欠点だけである。

以上のとおり、本願考案に係る紙幣に、仮に識別機能の点で若干の利点があつても、同時に、普通の意味での欠点、不利益にとどまらず、現実的意味をもつて考案の実施ができる可能性のないほどに本質的で重大な欠点、不利益があり、しかも、それを防止する有効な技術的手段の開示がなく、その結果、実際上さほど高く評価できない利点すらも発揮できないのであるから、結局のところ、社会通念上技術的価値を欠き、産業上利用可能性のない考案に帰するのである。紙幣というものは、わずかな欠陥も許されないものであり、その製造、流通というものは、原告が考えているほどには簡単な性質のものではないのである。

2  公序違反について

前述したように、本願考案に係る紙幣は、本願考案の願書添付の明細書及び図面に記載された技術によつては、現実的意味をもつて実施できる可能性は事実上ないのであるから、常識をもつて判断すれば、現在の社会生活、経済活動の基礎をなす通貨として、国がそのような紙幣を採用する可能性の考えられないことは明らかであり、もちろん、一般私人がこのような紙幣の考案を適法に実施することができないことも、いうまでもない。そして、このような事情のもとにある本願考案にもし残された意味があるとすれば、それは、一般私人が行えば違法となる、真貨である紙幣にパンチ孔を穿設するという行為、すなわち、犯罪行為をそそのかすこと以外に有り得ない。現在流通過程におかれた真貨である紙幣にパンチ孔を穿設するということそれ自体は、何人も簡単になし得るものであるところ、本願考案がそのような犯罪行為を教唆することになる。このことは、原告自らも、本願考案について指摘しているところであり(甲第三号証第二頁第一七行ないし第二〇行)、しかも、それはパンチ孔の形状として星形や多角形のものを選んでみても変わるわけのものではない。そうであるから、このような本願考案をもつて、実用新案法第四条に規定する公の秩序を害するおそれがある考案であるとした本件審決の認定判断に何らの誤りもない。なお、原告は、本願考案を実用新案法第四条により拒絶することはパリ条約第四条の四に規定する国際義務に違反するものである旨主張するが、パリ条約第四条の四は、特許された生産物の販売又は特許された方法によつて得られた生産物の販売が国内法令で制限を受ける場合、それを理由として出願発明(考案を含むと解される。)について特許を拒絶又は無効にすることは許されない旨を規定しているのであり、その生産物の製造又は特許された方法自体の使用が同様に制限を受ける場合については規定していない。そればかりでなく、通貨の偽造及び変造並びに偽造、変造通貨の行使を禁止している刑法第一四八条及び第一四九条は、行政上の便宜に基づく単なる制約的法規定ではなく、現在の社会生活、経済活動の基礎を混乱、動揺させ、ひいては国の存立を危険ならしめる行為を禁圧する法規定であり、その遵守は、国にとつて基本的、かつ、最大限に尊重されなければならないところである。このような国の重大な要請に基づき、本願考案を公の秩序を害するおそれがあるものとして実用新案法第四条の規定により拒絶することは、何らパリ条約第四条の四に規定する国際義務に違反するものではない。また、原告は、実用新案法第四条は、考案がその考案本来の目的に使用されたときに公の秩序を害するおそれがある場合を規定しているのであつて、本来の目的以外に不当に使用され、その結果、公の秩序を害するおそれがある場合などは包含されないとしたうえで、この種紙幣を含む通貨及びその製造装置に関する考案は、常に通貨の偽造をそそのかすことになり、また、銃器等に関する考案は、暴力行為をそそのかし助長することとなつて、これらの考案はことごとく、右規定に該当するという不当な結果を生ずることになつてしまう旨主張するが、技術的価値を欠き、現実的意味をもつて実施できる可能性のない本願考案に係る穴あき紙幣と、技術的価値があり、現実にも十分に実施可能性のある銃器や兵器の考案とは、明らかに異なる。前者にあつては、犯罪行為を教唆すること以外に意味がなく、それゆえに必然的に公序違反とならざるを得ないのに対し、後者にあつては、適法に実施できる可能性が十分に存在するのであつて、原告の主張は失当である。

第四証拠関係<省略>

理由

(争いのない事実)

一  本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決は、実用新案法第三条第一項柱書き及び第四条の解釈を誤り、その結果、本願考案は実用新案法第三条第一項柱書きにいう産業上利用することができる考案であるということができず、かつ、実用新案法第四条に規定する公の秩序を害するおそれがあるから、実用新案登録を受けることができない旨の誤つた結論を導いたものであり、この点において、違法として取り消されるべきである。すなわち、

1  産業上の利用可能性について

前記当事者間に争いのない本願考案の要旨並びに成立に争いのない甲第三号証(本願考案の願書並びに添付の明細書及び図面)及び第四号証(昭和五七年一〇月八日付手続補正書)を総合すれば、本願考案は、紙幣の構造に関する考案であつて、盲人でも容易に、かつ、正確に紙幣を識別することができるようにすると同時に、各金額で異なる紙幣のサイズ、紙質等の統一化を可能にすることを目的とし、他方、破損防止という点も考慮したうえ、前記本願考案の要旨(本願考案の実用新案登録請求の範囲の記載と同じ。)のとおりの構成を採用したもので、任意形状のパンチ孔を幅方向に二つ折り又は長手方向に四つ折りした折り目を避けて穿設する構成を採ることにより破損防止に資するとともに、盲人でもその触感覚により容易に、かつ、正確に紙幣を識別することができる等の所期の効果を奏し得るものと認められる。ところで、紙質を同一のものとする限り、パンチ孔を穿設した紙幣は、パンチ孔を穿設していない紙幣に比べて、耐久性という点で劣るという欠点を伴うであろうことは容易に予測し得るところであるが(この点は、原告も明らかに争わないところである。)、本願考案が、パンチ孔を穿設することにより、前認定のとおりの作用効果を奏する紙幣を提供することをその技術的課題とし、これを達成したものである以上、それなりに考案として意義があるものというべきであつて、本願考案に、耐久性の低下という欠点があるとしても、右の欠点が本願考案の実施を不可能にさせるほど重大である場合は別として、そうでない場合には、産業上利用することができる考案であることを否定することはできないものと解すべきである。そこで、この点について検討するに、被告も「穴あき紙幣の耐久性の低下を数値でもつて表現することは、そのパンチ孔の大きさ、数、位置等の条件が具体的でないこともあつて困難であるが、」と主張していることからも明らかなように、パンチ孔を穿設することによつて生じる耐久性の低下の程度は、紙質のほか、パンチ孔の大きさ、数、位置等の条件によつて異なるもので、それらの点を捨象して、紙幣識別のためのパンチ孔を穿設するということから、パンチ孔を穿設した紙幣が紙幣としての使用に耐えないほど耐久性が低下するものと直ちに断じることはできないところ、本願考案においては、パンチ孔を穿設することによつて生じる耐久性の低下を防止するため、前認定のとおりパンチ孔を穿設する位置を幅方向に二つ折り又は長手方向に四つ折りした折り目を避けた位置に設ける構成が採られており、このほか、右耐久性の低下の欠点は、例えば将来紙質を改善して、より丈夫な紙質のものを用いることにより、また、パンチ孔の大きさを盲人が指の触感覚によつて識別できる限度で小さくしたり、あるいは前掲甲第三号証及び第四号証中考案の詳細な説明の項の記載にあるように、パンチ孔の数を一又は複数個として少なくし、更には、パンチ孔の形状を工夫したりする等当業者にとつて自明と考えられる手段を付加することにより、あるいはまた、新旧紙幣の交換サイクルを早めたりすること等によつて解決又は減少させることが可能と考えられ、そうすることにより紙幣の耐久性を保持しつつ本願考案の長所である前認定の効果を奏し得るものと認めるのを相当とし、この認定を覆すに足りる証拠はない。また、紙幣にパンチ孔が穿設されれば、そうしたもののない紙幣に比べて、それだけ紙幣の識別がしやすくなるという効果があることは前認定のとおりであり、特に、数種類ある紙幣の紙質及び大きさを共通にする場合には、盲人のために識別マークを設けることが必要になるであろうことは容易に予測し得るところであつて、このことは、本願考案の実用新案登録出願後の昭和五九年一一月一日より発行された、縦の長さが統一された新紙幣の裏面に、従来の紙幣にはなかつた盲人の紙幣識別の便宜のための点字の凹凸マークが形成されているという当裁判所に顕著な事実からも窺い知ることができることである。更に、本願考案におけるパンチ孔は、盲人が紙幣を識別することができるために必要、かつ、十分な大きさで足りるものであつて、そうしたパンチ孔の存在により正常人が偽造紙幣を真貨と誤認する危険が増大するとは考えられない。以上の事実によれば、本件審決の本願考案は産業上利用することができる考案に当たらない旨の認定判断は誤りであるといわざるを得ない。被告は、紙幣は、パンチ孔の存在によつて流通中に加速度的に破損され、ちぎれやすくなる等重大な耐久性の低下をもたらすもので、このことは、紙幣として別途考慮されれば足りるといつた単純な欠点ではなくて、本質的な問題であり、その考案の実施をも不可能にさせるほどに重大なものである旨主張するが、紙幣にとつて耐久性を保持することが本質的な要請であるとしても、パンチ孔の穿設によつて生じる耐久性の低下という欠点も、前認定のとおりの手段を講じることによつてある程度防止することができ、その結果、前認定の優れた作用効果を奏し得るものである以上、パンチ孔を穿設することが本願考案の実施を不可能にさせるほどに重大なものとは到底いい難いから、被告の右主張は、採用することができない。また、被告は、紙幣の耐久性の低下の防止について開示するところのない本願考案に係る紙幣に技術的価値はない旨主張するが、本願考案のもつ耐久性の低下という欠点は、前認定のとおり、孔の穿設位置を本願考案の要旨記載の構成とすることにより緩和されるほかに、パンチ孔を穿設した紙幣を造弊する場合に、その破損を防止するために当然考えるであろう自明の手段等を採用することによつて解決又は減少させることができるのであるから、明細書にその点が逐一記載されていないとしても、そのことから本願考案が実施できないものとはいい得ず、したがつて、右主張も採用の限りでない。更に、被告は、紙幣は流通過程においてしわになりやすいもので、パンチ孔による識別機能が低下することは明らかであり、本来それほど評価できない盲人に対する識別機能がますます低下してしまう旨主張するが、本願考案の奏する作用効果は前認定のとおりであり、また、紙幣にしわができることにより、パンチ孔による識別機能の低下があるとしても、そうした機能の低下は、紙幣の耐久性が著しく低下しないという要請を充足する範囲内においてパンチ孔の個数、形状、位置等を工夫することにより、また、しわにより識別機能の低下した紙幣の回収を、破損した紙幣の回収と同様に早くする等の手段を採用することにより、ある程度防止することができることを考えると、右被告主張の点も本願考案をもつて実施不可能なものとするに足りず、したがつて、被告の右主張も採用できない。

2  公序違反について

産業上利用することができる考案であつても、それが公の秩序を害するおそれがある場合には、実用新案登録を受けることができないことは、実用新案法第四条の規定するところであるが、右に公の秩序を害するおそれがある考案とは、考案の本来の目的が公の秩序を害するおそれがあり、したがつてその目的にそう実施が必然的に公の秩序を害するおそれのある考案をいうものと解すべきところ、前認定の本願考案の目的及び考案の内容に徴すると、本願考案が叙上の観点から公の秩序を害するものといい得ないことは明らかである。被告は、本願考案に係る紙幣は、本願考案の明細書及び図面に記載された技術によつては、現実的意味をもつて実施できる可能性は事実上ないのであるから、常識をもつて判断すれば、現在の社会生活、経済活動の基礎をなす通貨として、国がそのような紙幣を採用することの可能性は考えられず、また、一般私人がこのような紙幣の考案を適法に実施することができないこともいうまでもないところ、このような事情のもとにある本願考案にもし残された意味があるとすれば、それは、一般私人が行えば違法となる真貨である紙幣にパンチ孔を穿設するという行為、すなわち、犯罪行為をそそのかすこと以外に有り得ない旨主張するが、実施不能であることと公序違反となることとは直接結びつくものでないばかりか、本願考案は、前認定説示のとおり産業上利用できる考案というべきであるから、本願考案が国によつて実施される可能性が将来において全くないとはいい難いし、仮に、本願考案がヒントになつて、パンチ孔の穿設していない紙幣に孔を穿つ者がいるとしても、そのことと本願考案が公序に反するか否かとは全く別問題であつて、被告の右主張は、採用するに由ない。

そうであるとすれば、本願考案は、産業上利用することができる考案であつて、かつ、公序に反するものではなく、したがつて、本願考案をもつて産業上利用することができず、かつ、公序に反するとした本件審決の認定判断は、実用新案法第三条一項柱書き及び同法第四条の解釈適用を誤つた違法があるものというべく、本件審決は取消しを免れない。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 武居二郎 高山晨 川島貴志郎)

別紙

第1図

第2図

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